ヨシトのたびかん

主に福岡。ときどき県外の美術館までの小さな旅や展覧会の感想など

青森美術館めぐり⑦【会期終了】十和田市現代美術館『AKI INOMATA Significant Otherness シグニフィカント・アザネス』感想など

展覧会を知ったのは2019年の1月。美術系雑誌の付録の展覧会の年間スケジュールを見て、今年は何があるのかな~とペラペラめくっていたところ、透明な殻を背負ったやどかりの写真が目に飛び込んできました。 

(↑こちらは館内で撮影したものです)

 「美術館で生き物が作品となって生きたまま展示されている!!」
これはわりと、というか、かなり驚きの出来事でした。私が浅学なだけかもしれませんが、他の美術館ではそんなことをやっている美術館は聞いたことがなかったのです。

十和田市現代美術館は何でそんなことができるんだろう? とても気になって美術館の公式サイトを見て回りましたが「この美術館は生き物が展示できます」などとは書いていませんし、それがウリではないようです。

 ……めちゃくちゃ気になる。これは行ってみたい。ミーハー心に火がつきました。しかし、青森。福岡からはとても遠い。巡回展が来ないかな~、来ないよな~とため息をつきながら夏が過ぎ、冬になり、年明けに連休が取れたので「ここで行くしかない!」と思って青森行きの旅を計画したのでした。

 

 
 『AKI INOMATA:Significant Otherness シグニフィカント・アザネス

生きものと私が出会うとき』
 

展覧会のチラシより引用

展覧会タイトルの「Significant Otherness(重要な他者性)は科学史家ダナ・ハラウェイが提唱したコンセプトで、地球上に生きる生物種の共生関係を見つめ直そうというものです。 


生き物とアーティストの協同作業とはどんな感じなのか?
いざ、展覧会へ。


入ってまずは「girl,girl,girl,,,」

女性の洋服を細く切ったものをミノムシに与えて、ミノムシが自らミノを作った姿が展示されています。小学校などで、毛糸や折り紙をミノムシと一緒に入れて観察する実験などを思い出す方も多いかもしれません。ミノムシにも個体差があって、好きな色が違ったり、ミノの作り方が違ったり、まるで女性のファッションを見ているようです。

 

そして廊下。なんだか不思議な木の形の彫刻が並んでいます。現代の彫刻家の作品かと思いきや、ビーバーがかじった木なんだそう。

 「彫刻のつくりかた」

 

こちらはINOMATA(敬称略)が人間サイズに置き換えて作り直した彫刻。比較するものがありませんが、たぶん高さは1メートル以上あるはず。かなり大きな木をビーバーは歯でかじっているということですね。
そしてやどかりのいる部屋へ。他の部屋よりもかなり暖かいです。やどかりは暗がりに潜んでいることが多く、撮影はやどかり待ち。
ようやく撮れた一枚。

「やどかりに「やど」をわたしてみるーBorderー」


自然界のやどかりが「やど」として使っている貝殻をスキャンして、さまざまな国の建造物をあしらい、3Dプリンターで作成された透明な「やど」。このやどを与えられたやどかりは、古いやどから新しいやどへ移動したそう。会期終了間近のこのやどは一体何番目のやどなんだろうと考えながら、いくつかの水槽のやどかりを覗いて回りました。

 

 

そして15分くらい長居した後、会場には私一人だったので思い切ってスタッフの方に「どうしてこちらの美術館は生き物を展示できるのですか?」と訊いてみたところ、詳しいほうがいいですよね!と学芸員さんを呼んでくださり、学芸員さんとお話することに。(ヒー!)ただの美術好きに時間を割いて頂くのは大変恐縮でしたが、私の漠然とした質問にも笑顔でお話してくださいました。

(以下はヨシトが聞いたことであり、覚えていることです)
・美術館のサイトには載ってないけれど、十和田市現代美術館は生き物を展示できる。
・なぜなら、展示室がそれぞれ独立しているので他の作品への影響がないから。
・まちづくりとアートが一体となった取り組み、Arts Towada(アーツ・トワダ)構想    の段階からこれからの作品の展示に柔軟に対応できるよう建てられている。
 のだそう。なるほど~。

(ネットで検索したところ、こちらにも詳しく書かれていました)

http://towadaartcenter.com/wordpress/wp-content/uploads/2016/08/2008-arts-towada-press-release.pdf

 
美術館で展覧会を観てきた私にとって生き物が展示されない美術館は普通のことでした。だけど、もしかすると「生き物を生きたまま作品として展示する」「生き物と協同で何かを作る」前例を見たことがなければ、創作する人も、観る人もそういう作品を創ろうと思うことがない・観たいと思うことがないわけで、この展覧会は知らず知らずのうちに囚われていた概念から、ふっと目を覚まさせてくれるような展覧会だったのではないかなと思いました。

 

towadaartcenter.com

 

おまけ

「INOMATAさんの福岡であった展覧会は行かれましたか?」と学芸員さんに質問され、初めて北九州市立美術館でも展示があったことに気付いた私。きっとここだけだと思っていたので地元を調べることを怠っていました。北九州市立美術館の展覧会は資料と映像だけだったようですがちょっと悔しかったです。