ヨシトのたびかん

主に福岡。ときどき県外の美術館までの小さな旅や展覧会の感想など

布と一緒に絵が見られる!『藤田嗣治と彼が愛した布たち』福岡市美術館

藤田嗣治(1886-1968)の絵をご覧になったことがある方なら、布地の柄が細かく描かれていることに並々ならぬエネルギーを感じた方もおられるのではないでしょうか。
今回の展覧会は絵に描かれた染織品にスポットを当てて藤田の画業に迫る初の試みだそう。

一体絵でどのくらい柄を再現しているんだろう?と気になって行ってきました。

 

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【福岡市美術館】2020年10月17日(土)〜12月13日(日)
『藤田嗣治と彼が愛した布たち』 

www.fukuoka-art-museum.jp

 

会場内の撮影は不可なのでお見せできませんが、絵のすぐ近くに布が展示されていて 「ここの柄がここと同じだ~!」と目をキョロキョロさせて心の中で興奮していました。
布と同じ柄が正確に絵に描かれていることで藤田の人気が高まっていったそう。
写真のような正確さの絵なら藤田でなくとも他に居そうだけど、"藤田の場合は触覚を喚起させるような描写を追求した”(図録『藤田嗣治と彼が愛した布たち』)そう。

 《アンナ・ド・ノアイユの肖像》では女性が着ているワンピースの袖とスカート部分にチュールが描かれています。女性は平面的に描かれているのに対してチュールの六角形の小さな網目が延々と続いていくのは目を引きます。近くで見てもごまかしがなく、細かに描かれている!

藤田が収集した布や製作した服や手作りの自分用と妻用のマスクが並んでいました。
当時の妻にあてた手紙に書かれた文字やささっと描かれたようなイラストなども展示されています。写真のサイズが今目にするものよりもとっても小さい(マッチ箱くらい?)のもので、お洒落をした藤田の姿が見られます。

今回珍しいのは藤田の戦争画も展示されていることでしょうか。
私は藤田の戦争画を2018年に東京都美術館で行われた回顧展で初めて見たのですが、等身大の人がそのまま入ってポーズをとっているような大きな絵がいくつもあり迫力がありました。カーキ色や茶色といった重々しい色のイメージの絵で、藤田と言えば乳白色の女性のイメージだったのでこういう絵も描いていたのだなと驚きました。

今回展示されている一枚の絵《神兵の救出到る》は荒々しいものではありません。
蘭領東インド(現インドネシア)を植民地として支配していたオランダ人の邸宅に一人の若い日本兵が足を踏み入れ、後ろ手に鎖で縛られて取り残されている女性を見つける場面を切り取った絵です。
今回の展示を最初から見て行けば戦争画にも藤田が以前描いた服が活かされているのが分かる絵でした。一枚の絵だからこそ解説も多めで、こちらもじっくり読めます。(図録の方はさらに細かく書いてあり、戦争画にしては不思議な絵だなと思われた方は読むといいかも)

 

福岡市美術館の公式ブログで作品の展示作業や展示風景が見られます。
裏話が好きな方にもおすすめです。

フランスからフジタ展作品が到着! | 福岡市美術館

初体験、ZOOMでフランスにフジタ展の展示作業を中継! | 福岡市美術館

 

常設展の近現代美術室Aでは関連企画として「藤田嗣治と関わった画家たち」の展示が行われています。2020年12月27日まで。
九州派で知った菊畑茂久馬(きくはたもくま)の《春風 五》(2011年)の展示もあります。淡い緑のほわっとした色と四角い形が引き締めている絵で、近現代美術室Cにある《ルーレット》(1964年)という作品と同じ人が描いた作品とは思えない作品です。

 

そして近現代美術室の出口近くの大きな壁の所にはKYNE《Untitled》2020年 
この作品は美術館の外からも見えます。こちらも2020年12月27日まで。

藤田の特別展が終わった後は12月24日から開催のヒグチユウコ展と少し重なります。

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