ヨシトのたびかん

主に福岡。ときどき県外の美術館までの小さな旅や展覧会の感想など

『ローカルカラーは何の色?-写真家・向井弘とその時代ー』 青森県立美術館

この展覧会、楽しめるだろうか。
常設展を抜け、特別企画の展示室にやってきた私はちょっと立ち止まった。
正直に言うと写真は詳しくない。
ましてや青森県の『ローカル』な写真家たちの写真展。

むむう。これは足早にさっと観るべきか。
常設展と同じチケットで観られるためとりあえず、とふらりと展示室へ
進む。青森県美は廊下があまりなく、部屋と部屋がずっと続いていくような
展示室のつくりになっているため、引き返すよりも進む方が迷わなそうだとも
思ったのだ。

見ていくと、戦後の青森の写真の歴史も分かるような、
地方で写真を撮り続けた人たちの、静かで熱い写真の展覧会だった。

1931年(昭和6年)に香川県で生まれた向井弘は戦後に青森県南津軽郡大鰐町
写真展を営む傍ら1960年代から2000年代にかけて、地元青森を拠点に写真家として
活躍。

 

コレクション展 2019-4 | 青森県立美術館より引用

”向井の活動の主軸となったのは、写真の仲間とともに作った同人誌『イマージュ・IMAGE』(以下『イマージュ』)の発行です。1972年から1985年まで、全20号刊行されたこの同人誌の目的は、当時全国に点在した写真グループや自主ギャラリーがそうであったように、東京を中心とする写真業界や写真雑誌が強いるシステムや価値観から解放された、独自の発表媒体を持つことでした。それは同時に、「ローカルカラー」として「中央」から一方的に押し付けられる地方の写真の固定的なイメージに対する、地方に生きる写真家たちの抵抗であり、また写真の未知の可能性への挑戦でもありました。”

 

小島一郎の『津軽』(1963年)や澤田教一の「安全への逃避」(1965年)なども
展示してあり、写真に詳しくなくてもそのころの東京の人が青森に抱くイメージ、
青森の写真家に求めるイメージが分かる。

賞を取るためにはコンテスト主催者の求めるイメージがあり、
それが地方にいる写真家に「こんな作品を撮らなきゃいけない」と思わせる。
同人誌はそれに対する抵抗と挑戦なのだ。

そんな真面目な側面がある一方、同人誌の編集後記のようなコメントからは
毎回編集が大変だっただろうな~とか締め切りに追われていたんだなぁ~とか、
制作の舞台裏が覗けて楽しい。同人誌の表紙の写真や文字組などからも当時の
雰囲気が分かって楽しい。

向井弘の他にもイマージュ同人の原田メイゴ、赤川健太郎、塚本義則、木村正一、
木村勝憲、伊藤俊幸、関連写真家は秋山亮二、柳沢信、沼田つよし、小島一郎、
澤田教一の作品も展示。

自然や人、街並みなど人によって撮るものは様々だ。

私が興味を引かれたのは秋山亮二「津軽 聊爾先生行状記」。
青森在住の期間、架空の聊爾先生の記録風に写した写真。
複数の人が何かをしているところが多く撮影されていて、そのどれもが
自然に映っていて、撮る人と撮られる人の距離をあまり感じない。
写真の横の聊爾先生の一言も面白いのでつい読んでしまった。

写真を見ながらずっと青森らしさとは何だろうと考えた。
自分ならどんな写真を撮るだろう。
自分の住んでいる福岡らしさって、日本らしさって何だろう?
旅人が見て地元との違いを感じるものが「らしさ」というなら、
旅人の感性の分だけ「らしさ」があるのかも。
ローカルカラーは何か突き詰めていくと、世界に繋がっていくんじゃなかろうか。

「らしさ」をそこにいながら見つけていくことの大変さと、
そこにあるものを写すことが「らしさ」になっていくような
そんな気がした展覧会だった。

 

コレクション展 2019-4 | 青森県立美術館

『ローカルカラーは何の色?ー写真家・向井弘とその時代展』

2020年3月15日(日)まで。